2017.05.06

貧乏絵かきと不思議な窓のお話『春の窓』


『春の窓』

小さな町に売れない絵かきがいました。
部屋のストーブの燃料も買えないほど貧乏なのです。
ある日のこと、寒さを凌ぐために毛布にくるまっていますと
誰かがドアをたたきました。
出てみると、そこには一匹のまだらの猫が立っていました。

猫を飼うとお金をかけなくても暖かくなると言う猫の提案で
絵かきはこのまだらの猫を飼うことにしました。
寝るときは猫をだいて、絵を描くときには襟巻きがわりにしたり。

それでもやっぱり窓のない北向きの部屋は寒いのです。

「南側の壁に窓を描いてください。」
壁に描いた窓の絵を魔法で本物にすると言う猫に戸惑いながらも、
夢や希望が入ってくるような窓を思い浮かべ絵かきの心は動きました。

幾日か過ぎ、南の壁に大きな窓の絵が出来上がりました。
一面広がる春の草原と、その向こうを小さな電車が走っている絵です。
そこに白いカーテンをかけると猫は長い呪文を唱えました。

そして、カーテンを開けるとそこには本物の草原が広がっていたのでした。


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壁に描いた窓が本当の窓になって描いた通りの景色が広がっている。
こんな窓があったら本当に素敵だなと思いました。
私は窓から外の景色を眺めるのが大好きです。
一番好きな場所はよく利用する図書館。
図書館って外光が入らないような造りのイメージなのですが、
そこは大きな窓があって窓の方に向いて椅子が並べてあるのです。

図書館の二階から見えるのは目の前の駅のホームと家並みと畑、
あとは遠くまで続く空が見えるだけのような景色なので、
天気のいい日はその窓向きの椅子に座って空を眺めているのが
幸せを感じるひとときなのです。

物語の文中にもありますが、本当に窓っていいものです。

そして、絵かきさんのところにきた不思議な猫。
こういうお話を読むと、言葉を話す動物に会ってみたくなったりします。
言葉を話せる人間には上手く気持ちを伝えられないくせに、
言葉が話せる犬や猫になら伝えられそうな気がして。
でも実際には動物が苦手なので…矛盾してますね。

この物語の猫は、ちょっと図々しくて、口が上手くて、しっかりもの、
上から目線のちょっと苦手なタイプだったんですけれど、
うだつの上がらない絵かきさんには丁度いい相棒だったのかも。
私もうじうじして誰かに背中を押してもらわないと動けないので
この位ハッキリしてる相手の方がいいのかもしれません。

それにこの猫、絵かきさんのために「最後の魔法」を使ってくれるのですが、
それがなんだか切なくて、胸がちょっとぎゅっとなるような感じでした。

でも最後はタイトルのような爽やかなラストだったと思います。




2017.03.12

くまの楽器屋さんと寒がりうさぎ『はるかぜのたいこ』


『はるかぜのたいこ』

一匹のうさぎがやってきました。

うさぎはセーターの上にオーバーを着て、
厚い靴下の上にブーツを履いていました。
おまけに手袋と襟巻き、マスクをしていました。

そして熊のお店の前に来たとき「はっくしょん」と
大きなくしゃみをしました。

気づいた熊はお店の中から大きな声をあげました。
「おや、誰かと思ったら寒がりうさぎさん」

熊は寒がりのうさぎのために大きなたいこを持ってきてあげました。


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あったかくなるいい方法を聞かれた楽器屋さんは
「そんならいい楽器がありますよ」と持ってきたのは大きなたいこ。

うさぎがチカラいっぱい、どーんとたいこを叩いて目をつぶると、
あたたかい風がふうっとかかってきました。

春の風を連れてくるたいこ。
ひとつ、またひとつ叩くたびに春を感じられる。
あの何とも言えない振動に乗せて春風を連れてくるのでしょうか。

楽器なら、案外できるかもしれないなんて思ってしまう。

「音」って見えないのに不思議です。
楽しかったり、嬉しかったり、悲しみや怒りだったり、
いろんな表情が見えるみたいに感じるし、聴こえるのです。
錯覚なのかな、でも錯覚でもいいんです。

そういえば、春の音ってなんでしょうね。
山間部じゃないと雪解けのせせらぎの音なんて聞こえませんし、
木々の芽吹く音や、桜が舞う音…聞いてみたいですけど。

現実的なことを言うと、ウグイスの声くらいしか思い浮かびません。
春先にちゃんと「ホーホケキョ」って鳴けない声が聞こえたりするの
けっこう好きです。
「がんばれっ」って心の中で言ってみたりして。



2016.12.11

黒マントを着た黒猫が教えてくれた素敵なこと『ひぐれのお客』


『ひぐれのお客』

裏地やボタンを売っている小さなお店のお話。

ある冬の初めの日暮れ時、めずらしいお客様がやってきました。

真っ黒いマントを着た、緑の目をした真っ黒い猫。
猫のマントは上等のカシミヤです。
寒がりの猫はマントにつける裏地を探しにやってきたのです。

赤色の裏地を付けたいと言う猫に
店主の山中さんは裏地を選んであげるのですが…。


暖かい火.jpg


赤と一口に言ってもきっと思い浮かべる色は人それぞれでしょう。

太陽の赤、炎の赤や、真紅のバラの赤や、郵便ポストの赤、
オレンジがかった赤、青みがかった赤や黒が混ざったような赤。

人工的に作られた赤と、自然の中の赤。

人ひとりひとりに個性があるように、
色にも優しい気持ちにさせてくれる色や、
慰めてくれたり、包み込んでくれたりする色、
寂しくなってしまったり、攻撃的だったりする色があって、
その時の気持ちで良くも悪くも惹かれるのだと思います。

それにしても、安房さんは色の表現がとても豊かです。
文字を目で追っているだけなのに色のついた情景を
思い浮かべることができます。
思いがけない素敵な景色を見せてくれるのです。




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