2017.04.29

『だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ』


『だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ』

働き者だけれど友達がいない一人ぼっちのだんまりうさぎ。

毎日一生懸命畑仕事をして、疲れたら寝転がって雲を見て、
日が暮れると家に帰り、黙ってごはんを食べて、
夜になったら星を見ながら眠るのが日課です。

ホコリを被った電話は一度も鳴ったことがありません。

ある朝のこと、大きなカゴを持ったうさぎがやってきました。
カゴの中のくるみ餅を畑の野菜と交換して欲しいというのです。


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だんまりうさぎの思いの葛藤が自分と似てるなと思いました。
友達が欲しくないわけじゃないけれど、
相手とどうコミュニケーションをとったらいいのか分からないのです。

畑で採れたカブでサラダを作りながら、誰かに分けてあげたいなと思ったり、
おいもを落ち葉で焼きながら、誰かと一緒に食べたいなと思ったりする
だんまりうさぎがとてもいじらしく思いました。

そんな時に、突然現れたおしゃべりうさぎ。
勝手に台所でくるみ餅を焼きはじめたり、
たくさんの話も終始おしゃべりうさぎのペース。
それでもだんまりうさぎは楽しくなってきました。

きっと自分が話すより相手の話を聞くのが好きなのです。
相手が楽しそうに話をしているのを見てるだけでもいいのです。

帰り際、電話をかけると言うおしゃべりうさぎに、
だんまりうさぎは、電話は好きじゃないと答えます。
すると、また遊びにくるわと言うおしゃべりうさぎ。

このやり取りが私はとても嬉しかったのです。
初対面の人に電話を断られたら、普通なら拒否されたと思いませんか?
「もう連絡取りたくないってことなのかな」って。
でも、だんまりうさぎはただ電話が苦手なだけなんです。
それを上手く伝えられないだけなんです、きっと。
だから、おしゃべりうさぎが「また遊びに来るわ」って言ってくれた時、
きっととてもとても嬉しかったに違いありません。




2017.03.04

亀からもらった不思議な時間『だれも知らない時間』


『だれも知らない時間』

漁師の良太はおばあさんと二人暮らしの元気な若者。
貧乏だけれど毎日忙しくて、網にあいた小さい穴を繕う時間もないほど。
ある日、貧乏暇なしでやりきれないと嘆いていると、大きな亀と出会ったのです。

もう亀は二百年も生きていました。
それでも、あと百年も命が残っているのです。
最近では大きな体を動かすのがおっくうになって眠ってばかり、
見る夢も同じで飽き飽きしていました。

暇が欲しいという良太に亀は自分の時間を分けてあげるというのです。
コップ一杯のお酒と引き換えに。

そして良太は夜中の十二時からの一時間、
誰も知るはずのない秘密の時間を持ったのでした。



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お酒と引き換えに自分だけの時間を手にした若者。
そして、この物語にはもうひとり亀から時間をもらった少女がいました。
それは、もう本当に”賭け”と言うしかないものと引き換えにして。

誰かの時間を貰うってことは、命の時間を貰うことと同じ。
そのためには大きなリスクを伴うことも覚悟しないといけないこと。
時間をもらうなんてありえないことですけれどね。

生きるもの全てに平等にある二十四時間という一日。
全く足らないと思う人もいれば、有り余っていると感じる人もいるでしょう。
私といえば…きっと時間はあるはずなんだと思います。
使い方が下手なのか、効率が悪い動きをしてるのか、
なんだか何もしないで休日が終わってるなんてことがよくあります。
きっと、考えて動けば十分な時間なのかもしれません。

でも、「何をしていても誰にも知られない時間」なんてちょっと惹かれますね。


安房直子コレクション『なくしてしまった魔法の時間』に収録されています。


2016.12.24

数奇な宿命で結ばれた娘と鹿のお話『天の鹿』


『天の鹿』

鹿撃ちの名人清十郎さんはある日不思議な鹿に出会いました。

見事な角をもつりっぱな牡鹿でした。

鉄砲の引き金を引こうとする清十郎さんに牡鹿は言いました。

「ここを通してくれ。そのかわりに宝物をあげるから」と。

清十郎さんには三人の娘がいました。
縁談話がある長女のたえ、次女のあや、そして三女のみゆき。
娘たちに宝物を持って帰ったらどれほど喜ぶだろう。

宝物があるという鹿の市へ清十郎さんは鹿に乗って行きました。

鹿の市からの帰り道、鹿は清十郎さんにこんなことをたずねました。

「昔、鹿のキモを食べたのは三人の娘のうちのどれかね。」

そういえば、昔どの娘かが病気をした時に牡鹿のキモを炙って
食べさせた覚えがあります。
でも、どの娘だったかすっかり忘れてしまっていました。

鹿は悲しみに震えているようでした。
そして、去っていく後ろ姿は寂しげでまぼろしのようでもありました。


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自分のキモを食べた娘と出会えて救われた牡鹿。

娘はこの宿命をどんな思いで受け入れたのだろう。

娘は、鹿と出会うずっと前からその存在を感じていたようだけれど。
思いもよらない相手だったとしても喜んで受け入れられたのだろうか。
それとも、鹿であることも知っていたんだろうか。

自分の力で変えられないのが宿命だというけれど。

「どうにもならないこと」を受け入れるのは…。
私には時間がかかることだなとあらためて感じた。




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