2017.03.08

黄泉の国へのお使い『白いおうむの森』


『白いおうむの森』

みずえは毎日スダア宝石店にやってきました。

お店のゴムの木にとまっている白いおうむに会うためです。

みずえはずいぶん前からこのおうむに言葉を教え込もうとしていました。
それは一度も会ったことのない、姉妹の名前でした。
みずえが生まれる少し前に、別の世界に逝ってしまったのです。

知っているのは写真に写った姿だけ。
いつしか、みずえは会ってみたいと思うようになりました。
それがだめなら、手紙を書いてみたいと。
でも、どうすれば手紙を届けることが出来るのでしょう。

スダア宝石店のオウムを見つけたとき、
みずえは胸が痛くなるほどドキッとしました。
鳥は黄泉の国にお使いすると誰かが言っていたのです。
大きくて真っ白で、ものを言うこの鳥なら、
神秘の国を知っているに違いないと思いました。


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もう会うことの叶わない誰かを想う気持ちはきっと届いてる。
そう思わせてくれると同時に、生きているものはそこに行ってはいけない、
そんな怖さを故意に感じさせている物語のように思った。

会いたくて募る思い。
一緒にいられるのなら、向こうの世界に…なんて。
そんなこと、きっと向こうの世界の人は望んではいないでしょう。

会いたい人、いつの間にか向こうの世界に行ってしまった人のほうが、
多くなってしまった。

どうか、そちらの世界がこの木漏れ日のように光射す場所でありますように。

2017.01.07

真夜中の列車の女の子たち『サリーさんの手』


『サリーさんの手』

上京したばかりのれい子は、線路沿いの部屋を借りました。

北向きで日当たりが悪く、電車の振動や騒音も気になりましたが
お金が貯まるまでの我慢だと借りることにしました。

れい子は人形を作っている工場に勤めています。
サリーさんという金髪で青い目をした布の人形です。

サリーさんの手だけを作るのがれい子の仕事です。
手の形に断たれた布をミシンで縫うだけの日々。
いつの間にか人形の手を作っていることすら忘れるようになりました。
こんなふうに大量生産で作られる人形はただの商品でしかないのだと
思うようにもなっていきました。

そんなころ、真夜中にも電車が通ることに気づくのです。
それは午前三時に走ってくるオレンジ色の客車でした。


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1月5日は、安房直子さんのお誕生日でした。
毎年、この日によせて何か記したいと思っていましたが、
何故か実際には何も書けず、ただ安房さんの作品を静かに読み過ごす日でした。

今年も5日は静かに物語を読んで終わったのですが、
急に思い立ったので書く事にしました。

初めて安房さんの本を買ったのが『きつねの窓』という
ポプラ社から出ていた作品集でした。
その10作品の中に『サリーさんの手』が収録されていました。

初めて自分のものとして手にした安房さんの本。
何度も読み返す中でとても印象に残った物語でした。
うまく言葉に出来ないのがもどかしいのですが、
なぜだか気になってそればかりを読み返したりしていました。

のちに、安房さんは人形がお好きだったということを知るのですが、
物語の最後三行に人形に対しての思いが溢れ出しているように思うのです。


2017年が始まりました。
昨年中はご訪問いただきありがとうございました。
そして、つたない文章をお読みいただきありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。


2016.12.18

さあ行こう!月がしずむまで、僕は自由だよ。『空にうかんだエレベーター』


『空にうかんだエレベーター』

大きな町の大通りにできた、子供服のお店。

綺麗に磨き上げられたショーウインドーには
セーターを着た大きなうさぎのぬいぐるみが飾られています。
そのうさぎは毎日ピアノを弾いていました。
そして、なぜかちょっと拗ねているようにも見えるのです。

毎日見に来る女の子ともちゃんはうさぎが大好きです。
じっとうさぎを見つめては、ピアノの音に耳を傾けます。
すると、本当にピアノの音が聞こえてくるのです。

ある日のこと、うさぎはこんな歌を歌っていました。

「満月の晩に、またあいましょう♬」

透き通った四角い箱に乗ってお月様に一番近いところまで…。

女の子とうさぎは月の光を浴びて夢のような時間を過ごしました。

でも、それは月が西の空にしずむまで。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのでした。


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ショーウインドーに飾られているうさぎのピアノの音に気づいたのは
きっと、女の子だけだったのかもしれません。
行き交う人たちは飾られている服ばかりに目がいって
ピアノの素敵なメロディに気づいてくれなかったから
うさぎはちょっと拗ねてしまったのかも。

そんなうさぎのピアノに真剣に耳をすませ褒めてくれた唯一の存在。

気づいて認めてくれたことが嬉しくて
女の子だけに満月の夜の魔法を教えてくれたのでしょう。

存在に気づいてくれて、認められること。

簡単なようでなかなか報われないのですが、
きっと、誰でもがそれを願っているのだと思うのです。

寒い季節に、心がふんわり暖かく感じる物語です。




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