2017.03.12

くまの楽器屋さんと寒がりうさぎ『はるかぜのたいこ』


『はるかぜのたいこ』

一匹のうさぎがやってきました。

うさぎはセーターの上にオーバーを着て、
厚い靴下の上にブーツを履いていました。
おまけに手袋と襟巻き、マスクをしていました。

そして熊のお店の前に来たとき「はっくしょん」と
大きなくしゃみをしました。

気づいた熊はお店の中から大きな声をあげました。
「おや、誰かと思ったら寒がりうさぎさん」

熊は寒がりのうさぎのために大きなたいこを持ってきてあげました。


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あったかくなるいい方法を聞かれた楽器屋さんは
「そんならいい楽器がありますよ」と持ってきたのは大きなたいこ。

うさぎがチカラいっぱい、どーんとたいこを叩いて目をつぶると、
あたたかい風がふうっとかかってきました。

春の風を連れてくるたいこ。
ひとつ、またひとつ叩くたびに春を感じられる。
あの何とも言えない振動に乗せて春風を連れてくるのでしょうか。

楽器なら、案外できるかもしれないなんて思ってしまう。

「音」って見えないのに不思議です。
楽しかったり、嬉しかったり、悲しみや怒りだったり、
いろんな表情が見えるみたいに感じるし、聴こえるのです。
錯覚なのかな、でも錯覚でもいいんです。

そういえば、春の音ってなんでしょうね。
山間部じゃないと雪解けのせせらぎの音なんて聞こえませんし、
木々の芽吹く音や、桜が舞う音…聞いてみたいですけど。

現実的なことを言うと、ウグイスの声くらいしか思い浮かびません。
春先にちゃんと「ホーホケキョ」って鳴けない声が聞こえたりするの
けっこう好きです。
「がんばれっ」って心の中で言ってみたりして。



2017.03.08

黄泉の国へのお使い『白いおうむの森』


『白いおうむの森』

みずえは毎日スダア宝石店にやってきました。

お店のゴムの木にとまっている白いおうむに会うためです。

みずえはずいぶん前からこのおうむに言葉を教え込もうとしていました。
それは一度も会ったことのない、姉妹の名前でした。
みずえが生まれる少し前に、別の世界に逝ってしまったのです。

知っているのは写真に写った姿だけ。
いつしか、みずえは会ってみたいと思うようになりました。
それがだめなら、手紙を書いてみたいと。
でも、どうすれば手紙を届けることが出来るのでしょう。

スダア宝石店のオウムを見つけたとき、
みずえは胸が痛くなるほどドキッとしました。
鳥は黄泉の国にお使いすると誰かが言っていたのです。
大きくて真っ白で、ものを言うこの鳥なら、
神秘の国を知っているに違いないと思いました。


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もう会うことの叶わない誰かを想う気持ちはきっと届いてる。
そう思わせてくれると同時に、生きているものはそこに行ってはいけない、
そんな怖さを故意に感じさせている物語のように思った。

会いたくて募る思い。
一緒にいられるのなら、向こうの世界に…なんて。
そんなこと、きっと向こうの世界の人は望んではいないでしょう。

会いたい人、いつの間にか向こうの世界に行ってしまった人のほうが、
多くなってしまった。

どうか、そちらの世界がこの木漏れ日のように光射す場所でありますように。

2017.03.05

真面目で正直者の青年に込めた思い(見習いコック:島田しまお)


世渡りの下手な青年

『海の館のひらめ』の主人公、島田しまおは真面目で働き者の青年ですが、
貧しく学歴もなく、人に取り入るのが下手な不器用な人間です。
料理を作ったり、食べたりするのが大好きで一人前の料理人になりたいと
人の嫌がる仕事も喜んでしていました。
しかし、料理学校も出ていなく、上司や先輩のご機嫌取りも出来ないしまおは
いつしか同僚や後輩にまで先を越され、ずっと下働きのまま。
馬鹿にされたり怒鳴られたり、悪口を言われる日々を送っていたのです。

作者である安房直子さんはこの青年にどのような思いを込めていたのでしょうか。

のちに安房さんはこのようにお話をされています。

「正直でまじめな人間が、損ばかりしているのが私は我慢ができませんでねえ」
この魚の言葉は、そのままこの作品を書いた頃の私の思いでした。


物語のしまおは、ひらめの助けを借りて成長していきます。
自分のお店を手に入れ、料理の腕を磨き、可愛いお嫁さんまで。
でもそれを達成できたのは、真面目にひらめの言いつけを守り、
料理の腕が上達しても得意になってひけらかしたりせずに、
それまでと同じように下働きを続けた誠実さにあったように思います。

こういう青年であって欲しいというのも安房さんの願いだったのかもしれません。


『海の館のひらめ』に込めた思い

それまで作品の中に自分の人生観や重いテーマを込めたことはあまりなかったとの
前置きをした上で、この作品を書くに至ったのは我が子を集団の中に入れた時、
一見美しい子供の世界に「正直者が馬鹿を見る」という現実を
目の当たりにしたからだったとのことでした。
傷ついて帰ってくる我が子に「もっとしたたかに、やられたらやり返しなさい」とは
どうしても言えなかったという安房さん。

誠実に、一生懸命生きている人の上には、必ず幸福の星がついているんだよということを伝えたくてこの作品を書きました。


星.PNG

子供の世界だけでなく、大人の社会でも真面目に正直にやっていても
報われないことはたくさんあります。
もっとずる賢くしたたかに、やられたらやり返せば
自分が得をするんだろうかと考える時があります。
でも、そんなことで人を欺いて、人を蹴落としてまで
得を手にすることがいいことなのか、そう思ってしまう自分がいます。

どんなに損をしても、真面目で正直なのが一番だと、
今、辛い思いをしても神様がちゃんとみているよと教えたかった。

この言葉に救われた思いがしました。

※安房直子コレクション2『見知らぬ町 ふしぎな村』より引用させて頂きました。
 こちらにも『海の館のひらめ』が収録されています。



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